Mag-log in49 ◇私からのお願い 「わかった。希樹さん、涼には文句や反対は言わせない。 私は希樹さんの希望がスムースにいくよう、お手伝いさせても らうからね。 こんなお手伝いじゃなくて、もっと他のことでサポートして あげたかったんだけどね。 ほんとに重ね重ねスマンね。 許してくださいよ、あなたを不幸にしてしまって。 あなたが当座困らないよう、十二分な慰謝料も考えさせて もらうから」 「ありがとうございます。お義父さん、宜しくお願いいたします」 この時、私はもうひとつのあることをご両親にお願いした。 それは愛結と涼の浮気のことについてだった。 最近になり知ったこと。 本当はふたりがガッツリ浮気をしていたという事実を……。 このことに関して、私が知っていることを、涼には伏せてほしいと お願いしたのだ。 離婚理由は今回の浮気相手に子供ができた事実だけでも 充分だし、友達でもある愛結との件はもう話題に上げるのも 精神的に苦しいからと私はそう説明し、ふたりを納得させた。 本当の理由はもちろん違った。 別にある。 寝てる子を起こすじゃないが、涼には愛結に連絡を取らせたく なかったから。 愛結のことを持ち出して涼に彼女の存在を思い出させたくなかった。 この先もずーっと、愛結には近付かせたくないのよね。 そして続けて私は言った。 今回の離婚に関して涼のしたことを一切、両親以外の他の人間には 口外しません。 その代わりと言ってはなんですが、友人の佐倉愛結からこの先万が一 涼の行方を聞かれるようなことがあっても教えないでほしいのです、と。 義父親は別の女性と結婚するであろう息子にとってもそのほうがいいと 判断したようで、ふたつ返事で私の申し出を約束してくれた。
「お義母さん、顔を上げてください。 私も今日のお話はたぶん青井さんと涼さんのことだろうと思ってました。 だから、私なりにいろいろ考えてある程度結論を出してこちらへ参りました。 DNA鑑定で涼さんの子だと判定が出たら、お子さんの認知はぜひともしてあげてください。 自業自得だとはいえ、涼さんのほうだって責任はありますから。 自分の子なのに逃げることは、人として許されないことです」「希樹さん、ごめんなさい……ごめんなさい。 そんなことまで言わせてしまって。 そう言ってもらって私たちも動きが取り易くなるわ。 ほんとにありがとう」と、義母が。そして「全く涼のヤツ、こんな良い妻がいるというのに何やってんだ、あの馬鹿が!」と、義父が呟いた。「希樹さん、あちらの子が産まれてもあなたと涼との間にできた子供が私たちの跡取りに変わりはないからね」 そう義父が言った。「お義父さん、お義母さん、それとできたら青井さんと涼さんの結婚を認めてあげてほしいんです。 子供にはやっぱりちゃんとした父親が必要ですから」 この私の提案はあまりにも予想外だったのだろう。しばらくふたりは、固まったままだった。「えっ? 希樹さんそれって……。 えっ? そんなこと──私たちはそんなことちっとも考えてませんよ、希樹さん」「あっ、わかってます。 おふたりがそうお考えだから、その意を汲みとってとかで申し出ているわけではないんです。 こう決めたのにはおふたりの知らない事情があってのことなのです」*「実は結婚前に涼さんと私の友人の佐倉さんとの間で、浮気疑惑を持たれるようなふたりの密会が数回ありました。
青井恵美が我が家に突撃してきた日から1週間後、涼の両親から 呼び出しがかかった。 きっと青井恵美と涼のことだろう。 彼女、やったね。Good Job! 子を持つ女は強くなれるんだろうね、きっと。 はて、義両親は私になんて言ってくるのだろう。 今回私ひとりが呼ばれているのだが。 まぁ、私にとっては好都合かもしれない。 ◇ ◇ ◇ ◇ 谷村の実家に着くと応接間に通されるや否や、義両親ふたりから頭を 下げられた。 「先日涼の浮気相手の青井さんって女性があなたたちの居る家へ行ったこと 聞いたわ。 実はね、涼じゃ埒が明かないと彼女2日前に家に来たの。 私も主人も、もう吃驚して。 あの馬鹿息子ったらあなたのような素敵な女性を妻にしながら何やってんだか、 本当に我が息子ながら涙が出たわ。 謝って済むことじゃないけど、ほんとにごめんなさい、希樹さん」 「すまないね、希樹さん」 お義母さんは泣きながら、そしてお義父さんは苦虫を 潰すような何とも言えない顔で謝ってくださった。「涼は彼女とは結婚もしない、誰の子かもわからないのに認知もしない、 そして希樹さんとは絶対別れないって言ってるの。 だけど青井さんはどうしても子供のためにまずは認知だけでもしてほしいって 言ってきてるのよ。 あのふたりのしたことは最低なことだけど、産まれてくる子のことを思うと 私たちも複雑で……。 それにあなた抜きで決めていい話だとは思えなくて。 結論が出てるわけではないんだけどね、今のあなたの気持ちも確認して 今後の対応を考えていこうかって、主人とも話していて……。 それでごめんなさいね、涼が一緒だと言いにくいこともあるでしょうし、
先日の奥さんとの会話中、私はかなりテンパってたと思う。 私から奥さんへの高ピーで失礼な物言いに対する謝罪もなしに お願い事をされても、そんなのできないに決まってるでしょって── 確か言われたような気がする。 奥さんに今更謝る? 私の助けになるかどうかもわからないんだし、私だって最初から 無茶振りしてることは自分が一番わかってる。 わかっててしたんだし、謝ったりできないわよ。 奥さんに言われた時も謝れなかったし。 もし今、同じこと言われてもやっぱり私は素直に謝れないと思う。 だってそうでしょ! しょうがないのよ、こうなったからには。 奥さんも言ってたけど── そうそう、恵美、落ち着くのよ 落ち着いて深呼吸~。 大きく息を吸って吐いてよく考えるの。 どこかに解決の糸口があるはず。 ほら、考えて。 谷村くんに言っても駄目、奥さんに言っても駄目、とすると あと誰がいる? 今、私が踏ん張らないとこのお腹の子は私生児になってしまうの。 恵美、頑張るのよ。 何のために頭がついてるの、ほら……。 とにかく、私は谷村くんと結婚できないとしても子供の認知だけはどうにか 解決しておかないといけない。 考えに考えた末──こうなったら谷村くんのご両親に会って彼を説得してもらうしかない という結論に達した。 それで駄目なら、自分の両親に相談してお金を借りて裁判を起こしてでもと、 そう決めた。 裁判までなんて、最初は全然思いもしなかった。 だけど一番の頼みの綱である谷村くんが、奥さんとの離婚なんて微塵も 考えていない様子で、逆に私とのことは遊びというスタンスをとられ、 その挙句手酷く罵られた。 そんなこともあって、ひとり何故か谷村くんの不倫相手である自分ばかりが 焦っていて、本来突然の出来事に騒いだり泣いたり取り乱してとりすがったり するはずの奥さんが、妙に余裕ぶっこいてて……。 はぁ~なんなの、この展開っていう感じになっている。 ことここにきて、私は自分が将来の見えない不幸な子を…… 産まれてくる前から不幸になるのがわかっている子を……この世に送り出そうとしていることに気付き、急に怖くなった。 そして、この子だけは何としても守りたいと強く思うようになった。
私は何て浅はかなんだろう。 薄々気が付いていながら自分の心に蓋をして──私を追いかけて好意を私に向けてくれていた頃の谷村くんの態度や言葉に いつまでも囚われて、真実を見ようとしなかった。 昨日の谷村くんの冷たい罵声で目が覚めた。 もう本当ならここで引き返すべきは、わかっていた。 だけど、本当になんということをしてしまったのだろう。 私は自分が結婚するために誰からも望まれていない子を 自分勝手に宿らせてしまったのだ、この身に。 子供を道具に使おうなんてしたから、バチが当たってしまった。 私が谷村くんの家を訪ねた時、あのふたりはちょうどまったりと 仲良くお茶をしようとしているところだった。 私の入る余地なんてないほど奥さんの希樹さんは、私より年下だけど とても落ち着いていて── 谷村くんを感情的に問い詰めたり、大声で罵倒したりなんてしなかった。 私に対してもクールに対応していた。 正妻の、妻という座にいる自信からなの? 谷村くんの望んでいない妊娠。 私との結婚なんて微塵も考えていない。 奥さんは? え~と、確か別れてもいいみたいな発言があったよね。 だけど別れたいとか、別れようと思うとかは、言ってなかった。 あれはどういう意味だったのだろう。 私は追い込まれていて、いろいろ過去の谷村くんや奥さんの言葉を 思い出しては、どこかに私とお腹の子の活路を見出せないものかと 足掻いた。 苦しい、なのにどこかに救いはないものかと考えることをやめることが できず、眠っている時以外は、胸がはちきれそうでとても苦しかった。
44 ◇泣きの連絡 翌日、青井恵美から私に泣きの連絡が入った。「会ってください」「もう会わないわ。 だけど電話でお話聞くだけなら聞きますが。 夫、あなたとの交際、やっぱり遊びだったでしょ?」「……」 図星ね。 きっと昨日は涼から冷たい態度を取られたに違いない。「騙されたって言われたわ。 このお腹の子のことも、そんなの知らないって。 わたし……わたしどうしたらいいんでしょう? 助けてください」「蒸し返すようでなんですけど、私が夫にしがみ付いているからあなたたちが一緒になれないとか、夫とあなたは愛し合ってるとか、いろいろと強気で呆れるばかりの言葉で私のことを侮辱したこと、覚えてます? 一度もそのことであなたからの謝罪の言葉も聞いてないのに、そんな相手からお願いされてもね~。 こんな状況で、はい、いいですよって助けるような人間っているんでしょうか? どう思います?」「あの時は谷村くんがこんなに冷たい態度をとるなんて夢にも思ってなくて」 まぁだ言い訳してる。 素直に謝らないんだ。 まぁ謝っても謝らなくても助けてなんてあげないけどね。 胸の内でそう呟いた。 「何の力にもなれないわ。 それに夫は私とは別れたくないそうなの。 余所に子供を作るような夫なんて私はいらないんだけどね。 私も困ってるのよ」 面白いわぁ~。 私と青井恵美の利害は、今やある意味一致しているというのに、肝心の涼が相反する行動をとるんだもん。 1つだけはっきりしていることがある。 涼は私のことも青井恵美のことも大切には







